エンテロウイルスD68に対するmRNAワクチンの開発(吉岡研がMol Ther Nucleic Acidsに発表)
- Research
大阪大学微生物病研究所/先導的学際研究機構の吉岡靖雄特任教授(ワクチン開発拠点先端モダリティ・DDS研究センター/薬学研究科/国際医工情報センター/一般財団法人阪大微生物病研究会)らの研究チームは、エンテロウイルスD68に対するmRNAワクチンの有用性をマウスで実証しました。
DDS/Adjuvant 研究チーム長 吉岡 靖雄 特任教授
概要
エンテロウイルスD68(EV-D68)は、主に小児に経気道感染し、感冒症状や喘息発作、肺炎などの呼吸器疾患を引き起こす病原体です。近年、EV-D68感染が、急性弛緩性脊髄炎と呼ばれるポリオ様の重篤な四肢麻痺疾患の原因となる可能性が示され、その予防の重要性が指摘されています。本背景から、EV-D68感染症は日本において、今後のパンデミックに備えるべき「重点感染症」に指定されています。本研究では、EV-D68に対するmRNAワクチンの開発を図り、マウスにおいて有用性を実証しました。EV-D68のP1蛋白質と3CD蛋白質を共発現させると、ウイルス様粒子(VLP)が形成されることが知られています。この仕組みを利用し、P1蛋白質と3CD蛋白質をコードするmRNAを脂質ナノ粒子に封入したmRNAワクチンを作製しました。このmRNAワクチンをマウスに投与したところ、強力なEV-D68特異的IgGと中和抗体が誘導されました。またEV-D68が感染する鼻腔でも特異的IgAと中和抗体が確認されました。さらにワクチン接種マウスでは、上・下気道でのEV-D68感染が有意に抑制され、四肢麻痺を防御可能であることも示されました。以上の結果より、EV-D68の感染を防御するワクチンとして、本mRNAワクチンが有望であることが示されました。さらにEV-D68のみならず、未知のエンテロウイルスによるパンデミックにも即応可能なワクチン構築に資する基盤技術としても期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Mol Ther Nucleic Acids」に2025年11月6日に公開されました。
雑誌名:Mol Ther Nucleic Acids
論文名:mRNA vaccine expressing enterovirus D68 virus-like particles induces potent neutralizing antibodies and protects against infection
著者名:Kunishima Y, Senpuku K, Kataoka-Nakamura C, Hirai T, Yoshioka Y.
DOI:10.1016/j.omtn.2025.102731.