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腸内微生物叢シークエン シング データ 中に存在する ヒトゲノム 由来配列 からの 個人情報の 再構築

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ゲノム解析研究チーム長 岡田 随象 教授

概要
大阪大学大学院医学系研究科の大学院生の 友藤嘉彦 さん (遺伝統計学)、 岡田随象 教授(遺伝統計学理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー)らの研究グループは、腸内微生物叢シークエンシングデータ中に含まれるごくわずかなヒトゲノム由来配列情報に対して 、 新規開発手法を適用することで、性別および属する人種集団 1 を高精度に推定できることを示しました。
また、腸内微生物叢シークエンシングデータ中のヒトゲノム由来配列を利用し、同一個人に由来する遺伝子多型データと腸内微生物叢シークエンシングデータの対応関係を高精度に推定できることを示しました。
さらに、高深度に腸内微生物叢シークエンシングを行った場合、データ中に存在するヒトゲノム由来配列を用いることで、便検体から個人の遺伝子多型情報を再構築できることを示しました。
細菌やウイルスなど、数多くの微生物によって構成される腸内微生物叢2 は、宿主の健康状態に影響を与えることが知られています。近年の次世代シークエンシン グ 3 技術の向上もあり、現在、多くの研究者達が便検体からの腸内微生物叢シークエンシング解析に取り組んでいます。腸内微生物叢シークエンシング4 を行うと、細菌やウイルスに由来する配列だけではなく、ごくわずかにヒトゲノム由来配列が得られることが知られていました。一般的に、遺伝子多型 5 情報に代表されるヒトゲノム情報については、個人情報保護の観点から、慎重な取り扱いが必要とされます。しかし、腸内微生物叢シークエンシングデータ中のヒトゲノム由来配列については、その量があまりにも少なく、どれほどの個人情報が取得可能なのかが不明だったため、取り扱いについて明確な指針がないのが現状です。また、腸内微生物叢シークエンシングデータ中のヒトゲノム由来配列を有効活用できる可能性 に ついても検討されていませんでした。
本研究成果によって、便検体及び腸内微生物叢シークエンシングデータ中に含まれるヒトゲノム由来配列を用いて、個人情報の再構築を行うことが出来ました。本研究成果は、データ共有 時の プライバシーの保護や、ポリジェニック・リスク・スコア *6 の構築などのデータの有効活用について議論する上で重要なリソースになることが期待され、健全かつ持続的な医学・生命科学研究の発展に資すると期待されます。
本研究成果は、 2023 年 5 月 16 日(火)午前 0 時(日本時間)に英国科学誌「 Nature Microbiology 」(オンライン)に掲載されました。

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