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令和6年度CAMaD 若手研究者海外派遣支援事業 活動報告

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CAMaDでは、次世代のワクチン開発や感染症学・免疫学研究をリードする若手研究者の育成を重要なミッションの一つに掲げており、これらの分野において研究を行う若手研究者を対象に、海外での研究活動に参画するための支援を行っています。今回は令和6年度の採択者を順番に紹介いたします。

学 会 名:The 17th International Congress on Toxoplasmosis (ToxoXVII)
開 催 地:Harnack-Haus(ドイツ連邦共和国 ベルリン)
渡航期間:2024年5月24日~2024年5月31日(8日間)

大阪大学微生物病研究所 感染病態分野 博士課程4年次
橘 優汰

この度は先端モダリティ・DDS研究センター(CAMaD)の若手研究者海外派遣支援事業のご支援により、2024年5月26-29日までドイツ・ベルリンにて開催されたthe 17th International Congress on Toxoplasmosis (ToxoXVII)に参加しました。本会は隔年で開催されるトキソプラズマ研究に特化した国際会議であり、内容は基礎(細胞生物学、代謝、宿主との相互作用、免疫応答、ゲノミクス等)から臨床、疫学まで幅広くカバーしています。世界中のトキソプラズマの研究者が一堂に会することから本病原体の最新の研究トピックスとトレンドを情報収集でき、また研究者間の交流の場となっています。今回は欧米を中心に200人以上の参加者となりました。私にとっては自身が専門とする研究対象のトキソプラズマの研究コミュニティに参加することは初めての経験となりました。本分野は伝統的に欧州と米国が中心であり、日本や中国を含めアジアや南米、アフリカからの参加者はまだ少ないのが現状です。少しでも良い研究を行って日本のプレゼンスを発揮することは重要であると感じました。
私は今回、口頭演題に採択され発表を行いました。内容は現在主に取り組んでいるもので、トキソプラズマ原虫が宿主細胞を破壊し細胞外へと脱出するために必要な分泌タンパク質に関する研究です。活発な質疑応答も行え、聴衆の反応もまずまずであったと感じました。この調子で研究を進め論文投稿へとつなげていこうと決意を新たにしました。発表後には直接話しかけてくれる研究者も増え、人的ネットワーク形成の足掛かりにもなりました。良い仕事をすると認知してもらえるのだと感じました。発表演題はどれも未発表のものばかりで非常にレベルが高いものが厳選されていました。特に若手研究者の発表が奨励されており、会全体として次世代を養成するという意思が感じられました。技術的な観点からの所感としては、トキソプラズマのCRISPRスクリーニングはこれまではごく限られたグループのみが行なっていましたが、本学会の発表では多くの研究室が導入しており、コモディティ化が進んでいると感じました。今後、どのような展開を迎えるのかを注視していきたいと考えています。形態学的手法では拡大顕微鏡であるU-ExM法やクライオ電子線トモグラフィー法(Cryo-ET)等による細胞の微細構造の観察が当たり前に行われており、この点に関して本邦は出遅れていると感じます。また欧米の研究の特徴としては、研究グループ間でのコラボレーションが盛んであり(国を越えて)、それぞれの専門分野を上手く活かしながらプロジェクトを進めていると感じました。また、基礎的な研究が中心の研究室からも、創薬を目指した研究が複数発表されていることが印象的でした。病原体の研究をやるからには基礎的内容に留まらず、創薬やワクチン開発、診断法開発といった応用研究をやっていく必要性を痛感しました。
本会への参加の目的には、共同研究を行っているスイスの研究者と最新データを共有し、現地で直接議論することがありました。データを実際に説明しつつ多くの有益なフィードバックを得ることができました。また、もう一つの目的であった現在主に取り組んでいる研究プロジェクトを進める上で必須なマテリアル入手のために米国の研究者と現地においてコンタクトを取ることができ、今後のコラボレーションに繋げることができました。これらのことが可能になったのもひとえに学会に現地参加することができたからです。昨今はオンラインという便利な選択肢もありますが、研究という営みが研究者から構成されるコミュニティによって運営される以上、現地に赴き顔を合わせて交流することの重要性を痛感しました。本邦における寄生虫学研究の発展のためにも欧米の研究者と積極的に人的交流やコラボレーションを行う必要があると感じました。
全体を通じた印象としては、トキソプラズマの研究コミュニティは大きすぎず小さすぎず良い意味でちょうど良い規模であり、お互いの顔が見えると感じました。それでいて決して排他的ではなく、協力的でいてかつ健全な競争も行われています。良いものには良いと正当に評価する集団であると思いました。本会への参加を通じて学んだ多くのことを、今後の研究に活かしていきたいと思います。
最後になりますが、本内容に関してご支援いただいたCAMaDの皆様にこの場をお借りして感謝申し上げます。

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